1.はじめに
近年高齢者人口が増え続けており、総務省統計局の2022年の調査によると総人口に対する高齢者(65歳以上)の割合は約29.1%にも上っています。
それに伴って老人ホームへの入居率も高齢者世帯の約5.7%と高くなってきています。
そこで今回は老人ホームへの入居と小規模宅地等の特例の適用についてお話したいと思います。
2.小規模宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例は、相続税の計算において、一定の要件を満たす宅地等の評価額を減額できる制度です。
この特例を適用することで、相続税の負担を大幅に軽減することが可能です。
(1) 特例の概要
被相続人が居住していた宅地や事業を行っていた宅地を、一定の要件を満たす相続人が相続した場合に、相続税評価額を減額できる制度です。
(2) 特例の種類
小規模宅地等の特例には、主に以下の3つの種類があります。
特定居住用宅地等: 被相続人が居住していた宅地等
特定事業用宅地等: 被相続人が事業を行っていた宅地等
貸付事業用宅地等: 被相続人が貸付事業を行っていた宅地等
(3) 適用要件
特例の適用を受けるためには、宅地の種類や相続人、その他細かな要件を満たす必要があります。
特定居住用宅地等
・宅地の要件:
・被相続人が居住していた宅地であること
・被相続人の配偶者、子、または孫が相続すること
・被相続人が亡くなる直前までその宅地に居住していたこと
・相続人の要件:
・配偶者、子、または孫であること
・相続開始時にその宅地に居住していること(配偶者や一定の要件を満たす相続人はその宅地に居住していなくても適用を受けることができます)
特定事業用宅地等
・宅地の要件:
・被相続人が事業を行っていた宅地であること
・被相続人の配偶者、子、または孫が相続すること
・被相続人が亡くなる直前までその宅地で事業を行っていたこと
・相続人の要件:
・配偶者、子、または孫であること
・その事業を引継ぎ申告期限までその事業を行っていること
(4) 減額割合と限度面積
・特定居住用宅地等: 80%減額、限度面積330㎡
・特定事業用宅地等: 80%減額、限度面積400㎡
・貸付事業用宅地等:50%減額、限度面積200㎡
(5) 特例の適用を受けるための手続き
特例の適用を受けるためには、相続税の申告書に必要書類を添付して税務署に提出する必要があります。
3. 老人ホームへの入居と特例
被相続人が老人ホームに入居した場合、小規模宅地等の特例はどのように適用されるのでしょうか。
(1) 特例の適用可否
原則として、被相続人が老人ホームに入居した場合でも、以下の条件を満たせば、小規模宅地等の特例を適用することができます。
・被相続人が要介護認定または要支援認定を受けていること。
・被相続人が老人福祉法に規定する養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅等に入居していること
(2)具体的なケーススタディ 国税庁HPより
ケース1:被相続人は、介護保険法に規定する要介護認定を受け、居住していた建物を離れて特別養護老人ホーム(老人福祉法第20条の5)に入所しましたが、一度も退所することなく亡くなりました。
被相続人が特別養護老人ホームへの入所前まで居住していた建物は、相続の開始の直前まで空家となっていましたが、この建物の敷地は、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当しますか。
被相続人が所有していた建物の敷地は、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当し、その他の要件を満たせば小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
ケース2: 老人ホームに入所していた被相続人が、要介護認定の申請中に亡くなりましたが、相続開始の時において要介護認定を受けていませんでした。
この場合において、相続の開始後に被相続人に要介護認定があったときには、租税特別措置法施行令第40条の2第2項第1号に規定する要介護認定を受けていた被相続人に該当するものと考え てよいでしょうか。
被相続人は相続の開始の直前において要介護認定等を受けていた者に該当するものとして差し支えありません。
ただし、老人ホームに入居した後自宅を賃貸していた場合などは特定居住用宅地等の特例を受けることはできません。
自宅を有償で賃貸した場合にはその他の要件を満たせば貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例を受けられる場合があります。
4. まとめ
小規模宅地等の特例は、相続税の負担を軽減するための重要な制度です。
老人ホームへの入居と特例の適用については、注意すべき点が多くあります。
正確な知識を持ち、適切な手続きを行うことが、相続税対策の第一歩となります。