コラム
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2025.06.12

相続放棄について

1.はじめに

相続が発生したとき、被相続人(亡くなった方)の財産を引き継ぐかどうかを決めなければなりません。

プラスの財産より借金などのマイナスの財産が多い場合、相続放棄という選択肢があります。

今回は、相続放棄の基本的な知識から手続きの方法、費用、注意点まで詳しく解説します。相続に関わる重要な判断の一助となれば幸いです。

2.相続放棄とは

相続放棄とは、被相続人の遺産(プラスの財産とマイナスの財産の両方)を一切引き継がないという法的手続きです。

民法では、相続人は被相続人の権利義務を包括的に承継するとされていますが、相続放棄をすることで「初めから相続人ではなかった」という扱いになります。

3.相続の選択肢

相続の選択肢は以下の3つあります:

  1. 単純承認: すべての財産(借金を含む)を無条件で引き継ぐ
  2. 限定承認: プラスの財産の範囲内でマイナスの財産(借金)を引き継ぐ
  3. 相続放棄: すべての財産を引き継がない

多くの場合、プラスの財産がマイナスの財産を上回る場合は単純承認、逆にマイナスの財産が多い場合は相続放棄を選択するケースが多いでしょう。

4.相続放棄が必要なケース

①被相続人に多額の借金がある場合

亡くなった方に住宅ローンや事業の借入金、消費者金融からの借入など多額の債務がある場合、相続放棄を検討する必要があります。

② 保証人になっていた債務がある場合

被相続人が他者の債務の保証人になっていた場合、その保証債務も相続の対象となります。

③ 事業の失敗による債務がある場合

個人事業主が事業に失敗し多額の債務を抱えたまま亡くなった場合など、相続放棄を検討すべきケースが多いです。

④ 相続財産の全容が不明な場合

被相続人の財産状況が不明確で、隠れた債務がある可能性がある場合も、安全策として相続放棄を選択することがあります。

5.相続放棄の手続き

5.1手続きの流れ

①相続の開始を知る

   – 相続の開始(被相続人の死亡)を知った日から3ヶ月以内に手続きを行う必要があります

②必要書類の準備

   – 相続放棄申述書

   – 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本

   – 相続人の戸籍謄本

   – 被相続人の住民票除票または戸籍の附票

   – その他裁判所が求める書類

③家庭裁判所への申述

   – 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書と必要書類を提出

④審理と決定

   – 裁判所が内容を審理し、問題がなければ相続放棄の受理通知が届きます

5.2提出先の裁判所

相続放棄の申述は、原則として被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。例えば、被相続人が東京都新宿区に住んでいた場合は、東京家庭裁判所に申述することになります。

5.3相続放棄の費用

相続放棄には以下のような費用がかかります:

① 裁判所に納める費用

– 申述手数料: 800円(収入印紙)

– 連絡用郵便切手: 裁判所によって異なりますが、1,000円〜2,000円程度

②. 必要書類取得費用

– 戸籍謄本: 1通あたり450円〜750円程度

– 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍が必要なため、複数取得する場合もあります

– 住民票除票/戸籍の附票: 1通あたり300円〜450円程度

③. 専門家への依頼費用(任意)

– 司法書士に依頼する場合: 3万円〜5万円程度

– 弁護士に依頼する場合: 5万円〜10万円程度

※専門家への依頼費用は、案件の複雑さや地域によって異なります。

④ 費用の目安(合計)

自分で手続きをする場合:約5,000円〜1万円程度

専門家に依頼する場合:約3万円〜10万円程度

 5.4相続放棄の期限と例外

 ①原則的な期限

相続放棄は、相続の開始があったことを知った時(通常は被相続人の死亡を知った時)から3ヶ月以内に行う必要があります。

②期限の例外

以下のような場合、期限を過ぎても相続放棄が認められることがあります:

イ. 熟慮期間の伸長

   – 3ヶ月以内に相続財産の調査が終わらない場合など、正当な理由があれば家庭裁判所に申立てをすることで期間を延長できます

ロ. 特別の事情による救済

   – 相続人が被相続人と長らく交流がなく相続財産の全容を知らなかった場合など、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月とされる場合があります

6.相続放棄の効果と注意点

6.1 相続放棄の効果

①相続権の喪失

   – 初めから相続人ではなかったものとみなされ、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しません

②次順位の相続人への移行

   – 相続放棄をした人の子供には相続権が移りません。代わりに次順位の相続人(兄弟姉妹など)に相続権が移ります

③遺言による指定の無効

   – 相続放棄をした場合、遺言で指定された遺産の分配も受けられなくなります

6.2 注意すべき点

①撤回不可

   – 一度相続放棄をすると、原則として撤回することはできません

②事前の財産調査が重要

   – 相続放棄の判断をする前に、被相続人の財産状況を可能な限り調査することが重要です

7.限定承認との比較

相続放棄と混同されやすい「限定承認」について比較してみましょう:

項目

相続放棄

限定承認

手続き

相続人が単独で可能

共同相続人全員の合意が必要

財産の承継

一切承継しない

プラス財産の範囲内でマイナス財産を承継

期限

相続開始を知ってから3カ月

相続開始を知ってから3カ月

手続きの複雑さ

比較的簡単

財産目録の作成など手続きが複雑

費用

比較的少額

財産調査・目録作成等で高額になりやすい

限定承認は、プラスの財産がマイナスの財産を若干上回る場合や、思い入れのある財産(例:実家の土地)を相続したい場合などに検討される選択肢ですが、手続きが複雑で費用もかかるため、実務上は相続放棄を選択するケースが多いのが現状です。

8.まとめ

相続放棄は、被相続人の借金などが資産を上回る場合に有効な選択肢です。

手続きは比較的シンプルですが、3ヶ月という期限があるため、相続が発生したら早めに財産状況を調査し、専門家に相談することをお勧めします。

費用面では、自分で手続きをする場合は1万円程度、専門家に依頼する場合でも3万円から10万円程度で済むことが多いです。

多額の債務を回避できることを考えれば、十分に検討する価値のある選択肢と言えるでしょう。

相続は一生に何度も経験するものではなく、感情的な要素も絡むため判断が難しいものです。

迷った場合は、税理士や弁護士などの専門家に相談し、自分の状況に最適な選択をすることが大切です。

 

 

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