はじめに
相続税の節税対策として「孫養子」という方法があります。
本コラムでは、孫養子制度の概要、メリット・デメリット、実際の手続き方法、そして近年の税制改正による影響について詳しく解説します。
相続対策を検討されている方々の参考になれば幸いです。
孫養子とは
孫養子とは、祖父母が実の孫を養子として迎え入れる制度です。
民法上、直系尊属と直系卑属の間の養子縁組は可能とされています。
この制度を活用することで、相続税の負担軽減が期待できます。
相続税対策としての効果
基礎控除の増加
相続税の基礎控除は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算されます。
孫を養子にすることで法定相続人が増え、基礎控除額が増加します。
例えば、法定相続人が1人増えると基礎控除額が600万円増加するため、相続税の課税対象となる財産が減少します。
税率の低減効果
相続税は各相続人の取得金額に応じて10%〜55%の累進税率が適用されます。
相続人が増えることで、一人当たりの相続財産が減少し、適用される税率が下がる可能性があります。
例えば、2億円の遺産を子1人が相続する場合と、子1人と養子1人(孫)で相続する場合を比較してみましょう:
ケース |
相続人 |
相続額 |
適用税率(最高) |
相続税額(概算) |
ケース1 |
子1人のみ |
2億円 |
40% |
約4800万円 |
ケース2 |
子1人+養子1人 |
各1億円 |
30% |
約3600万円 |
このように、相続人が増えることで相続税額を大幅に削減できる可能性があります。
※ただし、孫養子が取得した財産については相続税額が2割加算される制度があります。
孫養子に関する法的制限
養子縁組の人数制限
平成27年の税制改正により、相続税の節税目的と思われる養子縁組に制限が設けられました。
相続税法上の法定相続人に算入される養子の数には以下の制限があります
– 実子がいる場合:養子は1人まで
– 実子がいない場合:養子は2人まで
※ただし、配偶者の連れ子を養子にした場合は例外として上記の制限の対象外となります。
未成年養子縁組の成立要件
特に近年は養子縁組の審査が厳格化しており、単なる相続税対策目的と判断された場合は税務署に認められない可能性があります。
養子縁組の本来の目的である「親子関係の形成」という実質が求められます。
孫養子のメリット
相続税の節税効果
前述のとおり、法定相続人の増加による基礎控除の増加や生命保険、退職手当金の非課税枠の増加など相続税を減少させる効果があります。
家族関係の強化
法的な親子関係が生まれることで、祖父母と孫の絆が深まるという精神的なメリットも期待できます。
孫養子のデメリット
家族関係の複雑化
養子縁組により法的な親子関係が変わるため、家族関係が複雑になる可能性があります。
例えば、法的には祖父母が親となり、実の親は兄弟姉妹の関係になります。
相続トラブルのリスク
相続時に実子と養子(孫)の間で相続割合について争いが生じるリスクがあります。
事前に遺言書を作成するなどの対策が必要です。
税務調査のリスク
明らかな租税回避目的と判断された場合、税務調査の対象となる可能性があります。
近年は税務当局の目も厳しくなっています。
孫養子縁組の手続き
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養子縁組の合意
– 養親となる祖父母と、養子となる孫(未成年の場合は法定代理人)の合意が必要です
-
必要書類の準備
– 戸籍謄本
– 養子縁組届(証人2名が必要です)
– 養親の同意書
未成年者と養子縁組を結ぶ場合家庭裁判所の許可が必要なのですが、孫を養子にする場合は許可が不要です。
最近の動向と注意点
税制改正の影響
相続税対策としての養子縁組については、今後も税制改正により制限が強化される可能性があります。
最新の税制改正情報に常に注意を払う必要があります。
専門家への相談の重要性
孫養子縁組を検討する際は、税理士、弁護士など複数の専門家に相談することをお勧めします。
財産状況や家族構成によって最適な対策は異なります。
まとめ
孫養子縁組は相続税対策として一定の効果が期待できる方法ですが、法的制限や家族関係への影響など、検討すべき点も多くあります。
税制面だけでなく、家族関係や将来の相続問題なども総合的に考慮して判断することが大切です。
また、相続税対策は孫養子縁組だけでなく、生前贈与、不動産の活用、保険の活用など、様々な方法を組み合わせて行うことが効果的です。
ご自身の状況に合った最適な相続対策を見つけるために、専門家への相談をお勧めします。