はじめに
相続が発生した際、被相続人の財産が遠方の田や畑のみである場合、売却先もなく、管理も難しいため相続人全員が相続放棄をすれば国庫に帰属されてよいのではと単純に考えられる方もいらしゃるかもしれません。
今回は、相続人全員が相続放棄をした場合、被相続人の財産はどのような流れを経て最終的に国庫に帰属することになるのかについて詳しく解説いたします。
相続放棄の基本的な仕組み
相続放棄とは
相続放棄とは、相続人が被相続人の権利義務を一切承継しないことを意思表示する手続きです。
相続放棄をした者は、初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。
この効果は絶対的であり、一度放棄が受理されると撤回することはできません。
相続放棄の手続き
相続放棄は、相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に対して申述書を提出することで行います。
必要書類には以下のようなものがあります
– 相続放棄申述書
– 被相続人の住民票除票または戸籍附票
– 申述人の戸籍謄本
– 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
全員放棄の場合の特殊な状況
相続人全員が相続放棄をした場合、法的には「相続人不存在」の状態となります。
この状態では、被相続人の財産を管理し、最終的な処分を行う者がいなくなるため、特別な手続きが必要となります。
相続財産清算人の必要性
相続人が存在しない場合、相続財産は法人として扱われ(民法951条)、家庭裁判所によって選任された相続財産清算人が管理することになります。
相続財産清算人の選任手続き
申立権者
相続財産清算人の選任を申し立てることができるのは、以下の者です
– 検察官
– 利害関係人(債権者、特定遺贈を受けた者、特別縁故者など)
申立手続き
申立てに必要な書類は以下の通りです
– 相続財産清算人選任申立書
– 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
– 被相続人の住民票除票
– 相続人全員の戸籍謄本(放棄が確認できるもの)
– 相続財産に関する資料
– 申立人の利害関係を証する資料 など
予納金
相続財産清算人の選任には、通常数十万円から100万円程度の予納金が必要です。
この金額は、相続財産の規模や管理の複雑さによって決定されます。
相続財産清算人の職務
財産の調査・管理
相続財産清算人は選任後、以下の職務を行います
財産調査:被相続人の全財産(不動産、預貯金、有価証券等)と債務の調査
財産管理:相続財産の保存、維持管理
債権者への対応:債権者からの請求に対する対応
公告手続き
相続財産清算人が選任されると、公告が行われます。この公告の期間満了までに相続人が現れない場合相続人がいないことが確定します。
特別縁故者への財産分与
公告満了後、特別縁故者からの申立てにより、家庭裁判所が相当と認める時は相続財産の全部または一部が分与されることがあります。
特別縁故者として認められる可能性がある者
– 被相続人と生計を同じくしていた者
– 被相続人の療養看護に努めた者
– その他被相続人と特別の縁故があった者
国庫帰属の最終段階
国庫帰属の要件
以下の条件がすべて満たされた場合、残余財産は国庫に帰属します
– 相続人全員が相続放棄している
– 公告期間満了後も相続人が現れない
– 特別縁故者への分与が行われないか、分与後も残余財産がある
– すべての債務が清算されている
国庫帰属の手続き
清算手続きの完了:相続財産清算人が債務の弁済、特別縁故者への分与等を完了
国庫帰属の通知:管轄する財務局への通知
財産の引渡し:国に対する財産の引渡し
清算人の任務終了:家庭裁判所への報告と任務終了
実務上の留意点
管理費用の問題
相続財産清算人の報酬や管理費用は相続財産から支出されますが、財産が少額の場合は申立人が予納した金額から支出されることになります。
時間的コスト
相続人全員の相続放棄から最終的な国庫帰属まで、通常数カ月から数年程度の期間を要します。
まとめ
相続人全員が相続放棄した場合の国庫帰属までの流れは、法的に複雑で時間を要する手続きです。
相続財産清算人の選任から始まり、債権者への対応、特別縁故者の確認、そして最終的な国庫帰属まで、多くの段階を経る必要があります。
このような状況を避けるためには、相続放棄以外の選択肢(限定承認など)についても専門家と相談の上、慎重に検討することをお勧めいたします。
令和5年4月からは相続等によって取得した土地について一定の要件を満たした場合、申請すれば国に引き取ってもらえる制度(相続土地国庫帰属制度)もございますので併せてご検討下さい。
相続に関する複雑な問題については、税理士や弁護士等の専門家にご相談いただくことで、最適な解決策を見つけることができるでしょう。