コラム
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2025.10.29

贈与の基礎知識

はじめに

年末が近づいてきて今年の贈与を実行しようと考えておられる方もいらっしゃると思います。

贈与は、家族間での財産移転や相続対策として広く利用されている制度です。

しかし、贈与には複雑な税務上のルールがあり、適切な理解なしに行うと思わぬ税負担や法的問題を招く可能性があります。

本コラムでは、贈与の基本的な仕組みから実践的な活用方法まで、税理士の視点から詳しく解説いたします。

贈与の基本概念

 贈与とは何か

贈与とは、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾することによって成立する契約です。

民法上、贈与は契約行為であるため、贈与者(あげる人)と受贈者(もらう人)の双方の意思の合致が必要となります。

 贈与の成立要件

贈与が成立するためには以下の要件を満たす必要があります

– 贈与者の贈与意思:財産を無償で相手に与える明確な意思

– 受贈者の受諾意思:贈与を受け取る意思の表示

– 財産の移転:実際に財産が贈与者から受贈者に移転すること

特に重要なのは、形式的な契約だけでなく、実質的な財産の移転が行われることです。

税務上は「実質贈与」の概念が適用されるため、名義だけの変更では贈与として認められない場合があります。

 贈与税の仕組み

贈与税の基本構造

贈与税は、個人が他の個人から財産をもらった場合に、もらった人(受贈者)に課される税金です。

1年間(1月1日から12月31日まで)にもらった財産の価額の合計額から基礎控除額を差し引いた残りの額に対して贈与税が課されます。

 基礎控除額

贈与税には年間110万円の基礎控除があります。

つまり、1年間にもらった財産の価額の合計が110万円以下であれば、贈与税はかからず、申告も不要です。

この基礎控除は受贈者1人当たりの金額であるため、複数の人から贈与を受けた場合は、その合計額から110万円を控除します。

 税率構造

贈与税の税率は累進税率となっており、贈与を受けた財産の価額が高いほど税率も高くなります。

また、平成27年1月1日以降、贈与税の税率は「一般贈与財産用」と「特例贈与財産用」の2つに区分されています。

特例贈与財産用の税率は、直系尊属(祖父母や父母など)から、その年の1月1日において18歳以上の子・孫などに贈与した場合に適用され、一般税率よりも軽減されています。

 贈与税の特例制度

 相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫に対する贈与について選択できる制度です。

この制度を選択すると

– 特別控除額:2,500万円まで贈与税がかからない

– 税率:2,500万円を超えた部分について一律20%の税率

– 相続時の取扱い:贈与時の価額で相続財産に加算して相続税を計算

– 基礎控除:毎年110万円までは贈与税がかからない、相続財産への加算も基礎控除分は不要

ただし、この制度を一度選択すると、その後の贈与については暦年贈与に戻ることはできないため、慎重な検討が必要です。

住宅取得等資金の贈与の特例

直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の特例では、一定の要件を満たすことで最大1,000万円(省エネ等住宅の場合)まで贈与税が非課税となります。

この特例は暦年贈与の110万円の基礎控除や相続時精算課税制度と併用することができます。

教育資金贈与の特例

30歳未満の子・孫等に対する教育資金の贈与について、1,500万円まで贈与税が非課税となる制度です。

ただし、金融機関との契約が必要で、教育資金以外の用途には使用できないなど、厳格な要件があります。

 贈与税の申告と納税

 申告が必要な場合

以下のいずれかに該当する場合は、贈与税の申告が必要です:

– 1年間にもらった財産の価額の合計額が基礎控除額(110万円)を超える場合

– 相続時精算課税を選択し、贈与額が基礎控除額(110万円)を超える場合

– 住宅取得等資金の贈与の特例などの特例を受ける場合

申告期限と納税期限

贈与税の申告期限は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までです。

納税期限も同じく3月15日となっています。

申告期限に遅れると延滞税等のペナルティが課されるため、注意が必要です。

実務上の注意点と対策

 名義預金の問題

相続が発生した際、家族名義の預金でも、実質的に被相続人が管理していた場合は「名義預金」として相続財産に含まれる可能性があります。

有効な贈与とするためには

– 通帳・印鑑を受贈者が管理する

– 贈与契約書を作成する

– 受贈者が自由に使える状況にある

 定期贈与との判定回避

毎年同じ時期に同じ金額を贈与していると、「定期贈与」として一括して贈与税が課される可能性があります。

これを回避するためには

– 贈与する金額や時期を変える

– 毎年贈与契約書を作成する

 まとめ

贈与は相続対策や財産移転の有効な手段ですが、税務上のルールは複雑で、適切な知識なしに実行すると思わぬリスクを招く可能性があります。

基礎控除の活用から各種特例制度の利用まで、個々の状況に応じた最適な贈与戦略を立てることが重要です。

特に、名義預金や定期贈与の問題は税務調査で指摘されやすい事項であるため、形式面と実質面の両方を整備することが不可欠です。

また、贈与税の申告期限は厳格に定められているため、計画的な準備と確実な申告手続きが求められます。

贈与を検討される際は、税理士などの専門家に相談し、税務リスクを適切に評価した上で実行することをお勧めします。

適切な贈与戦略により、家族の財産承継を円滑に進めることができるでしょう。

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