はじめに
政府は、非上場企業の株式相続における過度な節税を防ぐため、評価額の算定ルールを見直す検討に入りました。
国税庁は評価方法の適正化に向けた有識者会議を立ち上げ、年内をめどに議論を進める予定です。
この動きは、事業承継を控える中小企業オーナーにとって、今後の税務・資産戦略を見直す大きな転換点となる可能性があります。
なぜ今、見直しが必要とされているのか
相続税における財産評価の原則は「時価」です。
上場株式であれば市場の取引価格がそのまま用いられますが、非上場企業の株式には市場価格が存在しないため、独自のルールに基づいて評価額を算定する必要があります。
こうした制度の特性を利用し、近年では相続時に同じグループ企業へ資産を移動させたり、配当額を意図的に変更したりすることで株式の評価額を引き下げ、相続税を大幅に圧縮する事例が相次いで問題視されてきました。
さらに、会計検査院は2024年に「規模が大きい非上場企業の株式が特に低く算定される傾向にある」と指摘し、「評価制度がより適切になるよう検討することが肝要だ」と警鐘を鳴らしていました。
こうした背景を受け、政府は相続における不公平を是正する狙いから、今回の見直し検討へと踏み切った形です。
現行の非上場株式の評価方法
現行制度では、取引相場のない株式(非上場株式)の評価は、財産評価基本通達に基づき、株式を取得した株主の属性(同族株主かどうか)と会社の規模によって使用する方式が異なります。
① 原則的評価方式(同族株主等が取得した場合)
会社の規模は「総資産価額」「従業員数」「取引金額」の指標によって大会社・中会社・小会社に区分され、それぞれ以下の方式が適用されます。
| 会社区分 | 主な評価方式 | 概要 |
| 大会社 | 類似業種比準方式 | 事業内容が類似する上場企業の株価を参考に、配当・利益・純資産(簿価)の3要素で比準して評価 |
| 小会社 | 純資産価額方式 | 相続税評価額に洗い替えた総資産から負債・法人税相当額を控除して評価 |
| 中会社 | 両方式の併用 | 大会社・小会社の評価方法を一定の割合で組み合わせて算定 |
類似業種比準方式は、配当・利益・純資産の3要素が低ければ評価額も低くなる仕組みです。
そのため、配当を抑えたり、グループ内への資産移動によって利益や純資産を圧縮したりすることで、評価額を意図的に下げやすいという問題点が指摘されています。
今回の見直しの核心はまさにここにあります。
純資産価額方式は、会社が保有する資産・負債を相続税評価額に基づいて洗い替えた後、含み益に対して法人税相当額(現行37%)を差し引いた純資産をもとに算定します。
こちらは資産の実態に近い評価が行われるため、比準方式に比べて高い評価額になることが多く、操作の余地は相対的に小さいとされています。
② 特例的評価方式(同族株主以外が取得した場合)
同族株主以外の少数株主が取得した株式については、会社規模にかかわらず配当還元方式が適用されます。
これは1年間の配当金額を10%の利率で還元して株価を算定する方法で、一般的に原則的評価方式よりも大幅に低い評価額となります。
見直しによって何が変わるのか
今回の見直しでは、特に類似業種比準方式の算定要素や計算ロジックの見直しが焦点となると考えられます。
配当・利益・純資産といった比準要素の構成や比重が変更されたり、恣意的な評価圧縮を防ぐための歯止め規定が設けられたりする可能性があります。
見直しが実現した場合、これまで低く抑えられていた評価額が上昇し、相続税の負担が増加するケースが生じることは避けられません。
特に、規模の大きな非上場企業のオーナーにとっては実質的な増税となる可能性があります。
一方で、政府はあくまで「過度な節税の防止」と「相続の不公平是正」を目的として掲げており、適正な評価のもとで行われる事業承継まで阻害することは本意ではないと考えられます。
今後の議論の行方を注視する必要があります。
今、オーナー経営者が取るべき行動
制度改正の時期や内容はまだ確定していませんが、事業承継の準備には数年単位の時間を要するため、今から動き出すことが重要です。以下の点について、早めに確認・検討することをお勧めします。
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現状の株式評価額の把握 現行ルールのもとで自社株がどのように評価されているかを正確に確認し、改正後との乖離幅を試算しておく
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納税資金の確保 生命保険の活用や計画的な配当政策の見直しなど、評価額上昇に備えた資金戦略を立案する
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承継タイミングの検討 制度改正の前後で税負担が大きく変わる可能性があるため、「いつ承継するか」を経営判断として早期に位置づける
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専門家への相談 評価方法の変更は税負担に直結するため、税理士など専門家と連携し、自社の状況に応じた対策を総合的に検討する
おわりに
今回の非上場株式評価の見直しは、単なる税制上の技術的修正にとどまらず、中小企業の事業承継のあり方そのものに影響を与える重大な変化です。
「制度改正が決まってから動く」では手遅れになるケースも想定されます。現状の評価額の確認や承継計画の見直しについて、ぜひ早めにご相談ください。