コラム
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2026.06.10

相続で取得した財産の取得価額について

 はじめに

相続によって土地や建物、株式などの財産を取得した後、それらを売却する際には譲渡所得税が問題となります。

この譲渡所得を計算するうえで非常に重要な役割を果たすのが「取得価額」です。

取得価額とは、簡単に言えば「その財産をいくらで取得したか」という金額のことであり、売却価格からこの取得価額を差し引いた金額が譲渡所得となります。

取得価額が高ければ高いほど譲渡所得は小さくなり、結果として納める税金も少なくなります。

相続で財産を取得した場合、この取得価額はどのように計算するのでしょうか。

今回は実務上よく問題となるポイントを整理しながら解説します。

  1. 相続で取得した財産の取得価額の原則

所得税法上、相続によって取得した財産の取得価額は、被相続人(亡くなった方)が取得した時の価額を引き継ぐこととされています(所得税法第60条)。

これを「取得価額の引継ぎ」と呼びます。

つまり、相続人が新たに財産を取得したにもかかわらず、取得価額は被相続人が実際にその財産を購入した当時の金額が引き継がれるということです。

たとえば、被相続人が30年前に2,000万円で購入した土地を相続した場合、相続人が将来その土地を売却する際の取得価額は、相続時の時価ではなく、被相続人が購入した当時の2,000万円が基準となります。

この取扱いの背景には、相続による財産移転の際に含み益を一度精算せず、将来売却したときにまとめて課税するという考え方があります。

被相続人が保有していた間に生じた値上がり益についても、最終的には相続人が売却した時点で課税されることになります。

  1. 相続税の取得費加算の特例

原則として被相続人の取得価額を引き継ぐと説明しましたが、相続税を支払っている場合には、一定の条件のもとで取得価額に相続税額の一部を加算できる特例があります。

これを「相続税の取得費加算の特例」といいます(租税特別措置法第39条)。

 特例の概要

相続や遺贈によって財産を取得した人が、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、その財産を譲渡した場合には、支払った相続税のうち一定の金額を取得費に加算することができます。

 加算できる相続税額の計算方法

加算できる相続税額は、次の算式で計算します。

加算できる相続税額=その相続人が納付した相続税額×(譲渡した財産の相続税評価額÷その相続人が取得した財産の相続税評価額の合計額)

この特例を適用することで取得費が増加し、課税される譲渡所得を抑えることができます。相続後に財産を売却する予定がある場合には、この特例の適用可否を必ず確認することが重要です。

注意点

この特例には適用期限(相続税申告期限の翌日から3年以内の売却)があるため、期限を過ぎてしまうと特例が使えなくなります。

相続財産の売却を検討している場合は、早めに税理士へ相談することをお勧めします。

  1. 取得価額が不明な場合の対応

被相続人が財産を取得した時期が古く、当時の売買契約書や領収書などが残っていないために取得価額が不明なケースは実務上非常に多く見られます。

このような場合はどのように対処するのでしょうか。

 不動産の場合

取得価額が不明な場合、譲渡価額(売却金額)の5%を取得価額とみなす概算取得費を使うことができます(所得税法第38条、租税特別措置法第31条の4)。

たとえば5,000万円で売却した場合、取得価額が不明であれば250万円(5,000万円×5%)を取得費として計上することになります。

この場合、売却益が非常に大きくなり、多額の譲渡所得税が生じる可能性があります。

そのため、概算取得費(5%)を使わざるを得ない状況を避けるために、被相続人が保有していた不動産に関する売買契約書・領収書・登記関係書類などは相続後も大切に保管しておく必要があります。

 取得価額の証明に役立つ資料

取得価額が証明できる資料としては以下のようなものが挙げられます。

資料の種類

内容・用途

売買契約書・領収書 最も直接的な証明書類
購入時のローン契約書 購入金額の推定に活用できる場合がある
不動産業者の資料 当時の取引価格に関する記録が残っている場合がある

取得価額を証明する書類は、相続が発生した際に被相続人の遺品の中から必ず確認するようにしましょう。

  1. 株式を相続した場合の取得価額

株式を相続した場合も、基本的には被相続人の取得価額を引き継ぐことになります。

ただし、株式には上場株式と非上場株式があり、それぞれ注意が必要です。

 上場株式の場合

証券会社に口座がある場合、証券会社が取得価額を管理しているため、比較的容易に確認できます。

相続の手続きにおいて口座を相続人名義へ移管する際に、証券会社から取得価額の情報を引き継ぐことができます。

ただし、特定口座ではなく一般口座で保有していた場合や、証券会社のシステム移行前に取得した株式については、取得価額が不明になる場合があります。

この場合も不動産と同様に、取得価額の証明書類を探すことが必要になります。

 非上場株式の場合

非上場株式は市場での取引がないため、相続税の計算では純資産価額方式や類似業種比準方式などの評価方法が用いられます。

将来売却する際の取得価額については、被相続人がその株式を取得した価額を引き継ぐことが原則ですが、取得の経緯(設立時の出資、増資の引受け、第三者からの購入等)によって取得価額の整理が複雑になる場合があります。

  1. 実務上のポイントまとめ

相続財産の取得価額について、実務上特に重要なポイントをまとめると以下のとおりです。

  1. 取得価額は被相続人の取得価額を引き継ぐのが原則であり、相続時の時価ではない

  2. 相続税の取得費加算の特例(相続税申告期限翌日から3年以内の売却)は漏れなく検討する

  3. 取得価額を証明する書類(売買契約書・領収書等)は相続財産の整理時に必ず確認・保管する

  4. 書類が見つからない場合は概算取得費5%の適用となり、税負担が大幅に増える可能性がある

  5. 株式(特に上場株式)については証券会社への確認を早めに行う

  6. 売却を検討している場合は、事前に税理士へ相談することで節税の選択肢が広がる

 おわりに

相続によって取得した財産を売却する際の取得価額は、一見シンプルに見えて、実務では見落としやすいポイントが多く存在します。

被相続人の取得価額の引継ぎという原則を正しく理解したうえで、相続税の取得費加算の特例や取得価額を証明する書類の有無など、個別の事情に応じた対応が必要です。

特に、取得価額に関する書類は一度失ってしまうと取り戻すことが非常に難しく、税負担に直結する重大な問題となります。

相続が発生した際には財産の評価や申告手続きだけでなく、将来の売却も視野に入れた資料の保管・整理も合わせて行うことが大切です。

 

 

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