コラム
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2026.07.09

相続における「事実上の放棄」の危険性と注意

 はじめに

相続が発生した際、「自分には財産も関係ないし、面倒だから関わりたくない」という理由で、遺産分割の話し合いに参加せずに放置してしまうケースがあります。

これは家庭裁判所への申述を行っていない「事実上の放棄」と呼ばれる状態ですが、法律的には正式な相続放棄とは全く異なるものです。

この「事実上の放棄」は、将来にわたって様々な法的トラブルや税務上の問題を引き起こすリスクがあります。

本コラムでは、その危険性と具体的な注意点について詳しく解説します。

正式な相続放棄と「事実上の放棄」の違い

まず、正式な相続放棄と事実上の放棄の違いを整理しておきましょう。

比較項目 正式な相続放棄 事実上の放棄
手続き 家庭裁判所への申述が必要 手続きなし
申述期限 相続を知った日から3ヶ月以内 特になし
法的効力 初めから相続人でなかったとみなされる 法的には相続人のまま
債務の扱い 被相続人の債務を引き継がない 債務を引き継ぐ可能性がある
遺産分割への参加義務 なし あり(相続人全員の合意が必要)

正式な相続放棄は、家庭裁判所に申述書を提出し、受理されることで初めて法的効力が生じます。

一方、事実上の放棄はあくまでも「自分は関わらない」という個人的な意思表示に過ぎず、法律上は依然として相続人であり続けます。

 事実上の放棄が引き起こす具体的なリスク

 1. 被相続人の債務を負担するリスク

最も重大なリスクの一つが、被相続人の借金や債務を相続してしまうことです。

相続人は、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も引き継ぎます。

正式な相続放棄をしていない限り、被相続人に多額の借金や保証債務があった場合、債権者から突然請求が来ることがあります。

「遺産分割協議で自分は何ももらわないことにした」という場合でも、債権者(銀行・消費者金融など)に対しては、その遺産分割協議の内容を主張することができません。

債権者は法定相続分に応じて各相続人に請求できる権利を持っているためです。

たとえ遺産分割協議書に「○○が全ての債務を引き受ける」と記載されていたとしても、それは相続人間の内部的な合意に過ぎず、債権者を拘束するものではありません。

 2. 遺産分割が永遠に未完了となるリスク

遺産分割協議は、相続人全員が参加し、全員の合意が必要です。

一人でも「関わりたくない」という相続人がいた場合、その人を含めた全員の合意がなければ遺産分割協議は成立しません。

事実上の放棄をして音信不通になっている相続人がいると、不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約・払い戻しといった手続きが進められなくなります。

特に不動産については、2024年4月から相続登記が義務化されており、正当な理由なく3年以内に登記を行わない場合は10万円以下の過料が科される可能性があります。

また、時間が経過すると二次相続(相続人自身が亡くなること)が発生し、さらに相続人の数が増えて手続きが複雑化するという悪循環に陥ることもあります。

 3. 相続税申告・納税に関するリスク

相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。

事実上の放棄をして遺産分割協議が未成立のまま放置していると、相続税の申告・納税にも影響が生じます。

遺産分割が未了の場合、相続税の申告は法定相続分で各相続人に按分して申告することになります。

「自分は遺産を受け取らないから相続税も払わなくていい」と思っていても、法定相続分に応じた相続税が課税される可能性があります。

また、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など、有利な特例の多くは遺産分割協議が成立していることが適用要件となっています。

遺産分割が未了のまま申告期限を迎えると、これらの特例を使えずに多額の相続税を納付しなければならないケースもあります。

 4. 時効・権利消滅のリスク

正式な相続放棄ができる期間は、相続の開始を知った日から原則3ヶ月以内です(熟慮期間)。

この期間を過ぎてしまうと、原則として相続放棄はできなくなります。

「後から気が変わって正式に放棄しようと思った」「被相続人に多額の借金があることを後から知った」という場合でも、3ヶ月を過ぎていれば家庭裁判所に申述できないケースがほとんどです(例外的に認められる場合もありますが、非常にハードルが高くなります)。

 事実上の放棄をしている場合の対処法

 ① できるだけ早く家庭裁判所への相続放棄を検討する

3ヶ月の熟慮期間が残っている場合は、速やかに家庭裁判所へ相続放棄の申述を行うことが最善の選択肢です。

手続き自体は比較的シンプルで、必要書類を揃えて申述書を提出するだけです。

弁護士や司法書士に依頼することも可能です。

 ② 熟慮期間が過ぎている場合は専門家に相談する

3ヶ月を過ぎてしまった場合でも、「相続財産の存在を知らなかった」などの特別な事情があれば、例外的に相続放棄が認められることがあります。

この場合は弁護士や司法書士への相談が不可欠です。

 ③ 遺産分割協議に参加して問題を解決する

相続放棄を選択しない場合は、遺産分割協議に積極的に参加することが重要です。

自分の取り分をゼロにする内容で合意することは可能ですが、必ず協議書を作成し、全員が署名・実印を押印した正式な書面を残しておく必要があります。

 まとめ

「面倒だから」「もめたくないから」という理由で相続の手続きを放置してしまう「事実上の放棄」は、債務の負担、手続きの停滞、相続税の問題など、後になって深刻なトラブルを招く可能性があります。

相続は「知らなかった」では済まされない法的問題が多数潜んでいます。

相続が発生したら、たとえ関わりたくない事情があったとしても、まず専門家(税理士・弁護士・司法書士)に相談し、正式な手続きによって自らの法的立場を明確にすることが何より重要です。

早めの対応が、将来の思わぬ損害を防ぐ最大の防衛策となります。

 

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