はじめに
企業経営において、パソコンや事務機器、車両、機械装置といった減価償却資産の取得は避けて通れないものです。
通常、これらの資産は耐用年数に応じて数年間にわたり分割して費用化(減価償却)しますが、中小企業者等の皆様を対象とした「少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(以下、少額減価償却資産の特例)」を活用すれば、取得した事業年度に一括して損金(経費)に算入することが可能です。
この制度は、企業のキャッシュフロー改善やタイムリーな設備投資を後押しする強力なツールとして、多くの経営者様にご活用いただいています。
さらに、近年の税制改正により、この特例や関連する固定資産税(償却資産税)のルールに重要な見直しが入っています。
今回は、少額減価償却資産の仕組みの基本から、最新の税制改正内容、そして実務上混同しやすい「償却資産税」との関係について、税理士の視点から分かりやすく解説します。
少額減価償却資産の特例とは
通常、法人税法上では「取得価額が10万円未満」の資産はその全額を購入時の事業年度の損金にできる(一括で経費にできる)一方、10万円以上の資産は原則として固定資産として計上し、耐用年数に応じて減価償却を行う必要があります。
しかし、青色申告書を提出する中小企業者等については、特例として「取得価額が一定金額未満の減価償却資産」を事業の用に供した場合、年間合計300万円を限度として、その取得価額の全額をその事業年度の損金に算入できるという措置が設けられています。
対象となる主な企業要件
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青色申告書を提出している中小企業者または農業協同組合等
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常時使用する従業員数が一定数以下の法人・個人事業主(※後述の改正で要件が変更)
この特例を適用することで、利益が出た決算期にまとまった額の設備投資費用を即時損金算入し、法人税等の税負担を抑えることが可能になります。
令和8年度税制改正における主な変更点
近年の経済環境の変化や物価高騰に対応するため、少額減価償却資産の特例および償却資産税を巡るルールに重要な改正が行われました。
主なポイントは以下の4点です。
① 対象資産の取得価額の上限引き上げ(30万円未満 ➔ 40万円未満)
これまで取得価額の限度は「30万円未満」でしたが、物価の上昇やIT機器・高性能設備の価格高騰を踏まえ、「40万円未満」へと引き上げられました。
これにより、これまで対象外となっていたやや高価格帯のパソコン、サーバー、ビジネス用ツールなども一括経費処理の対象に含めやすくなり、より柔軟な設備投資計画が可能になります。
② 適用期限の延長
本特例はこれまでも数年ごとの期限付きで延長されてきましたが、今回の改正により令和11年(2029年)3月31日まで適用期限が延長されました。
③ 対象企業規模(従業員数要件)の見直し
公平性の観点や対象者の見直しに伴い、適用を受けられる企業の要件である「常時使用する従業員数」の基準が、従来の「500人以下」から「400人以下」へ引き下げられました。
これにより、これまで従業員数400人超500人以下の範囲で本特例を活用していた企業の一部は、対象外となるケースが生じるため注意が必要です。
④ 年間限度額(300万円)は据え置き
即時損金算入できる年間の合計限度額である「300万円まで」という枠については、従来から変更はありません。
したがって、40万円未満の資産を複数購入する場合でも、年間300万円の枠を意識した管理が必要となります。
「法人税の経費」と「償却資産税(固定資産税)」の決定的な違い
経営者様からよくいただくご質問として、「即時償却して帳簿上の価額がゼロ(あるいは備忘価額のみ)になった資産は、固定資産税(償却資産税)の対象外になるのではないか?」というものがあります。
結論から申し上げますと、これは大きな誤解です。
償却資産税とは?
償却資産税とは、毎年1月1日現在に事業用資産(構築物、機械・装置、車両・運搬具、工具・器具・備品など)を所有している人が、その資産の所在する市区町村へ申告し、固定資産税として納税する地方税です。
税務会計と地方税(固定資産税)の取扱いの違い
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法人税法(国税): 少額減価償却資産の特例を適用すると、購入年度に全額が損金(費用)となり、帳簿上は資産価値が消滅(または少額)します。
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地方税法(固定資産税): 固定資産税の計算においては、上記の「法人税の即時損金算入(特例)」は適用されません。
つまり、通常の耐用年数に基づいた減価償却を行ったものとして課税標準額を計算する必要があります。
したがって、少額減価償却資産の特例を使って法人税を圧縮した資産であっても、耐用年数が経過するまでの間は、償却資産申告書の対象として市区町村へ申告し続けなければなりません。 「経費にしたからもう申告しなくていいや」と漏らしてしまうと、後日の税務調査や自治体からの指摘で修正を求められる原因になりますので、十分に注意してください。
令和8年度改正:償却資産税の「免税点」引き上げについて
さらに今回の税制改正では、償却資産税の負担を軽減するため、「免税点」の引き上げが行われました。
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改正前:
同一市区町村内における課税標準の合計額が 150万円未満 の場合、償却資産税は課税されない -
改正後:
課税標準の合計額が 180万円未満 の場合、非課税となる(※令和9年度以後の年度分の固定資産税から適用)
免税点が180万円に引き上げられたことにより、小規模な設備投資を行っている中小企業や個人事業主の皆様の固定資産税の負担が軽減されます。
ただし、課税標準の合計額が免税点未満であっても、市区町村への「償却資産申告書」の提出義務自体がなくなるわけではありません。
毎年1月末の申告期限に向けて、正確な資産台帳の整備と提出を怠らないようにしましょう。
実務上の注意点と税理士からのアドバイス
少額減価償却資産の特例と償却資産税を正しく運用するために、実務上押さえておきたいポイントをまとめました。
「取得価額」の判定に含める費用の範囲に注意する
資産の本体価格だけでなく、引取運賃や荷役費、購入手数料、さらには据付け費など、その資産を事業の用に供するために直接要した費用はすべて「取得価額」に含めて判定します。
また、消費税の経理方式(税込方式・税抜方式)によっても判定基準の金額が変わるため、自社の経理方式を確認しておきましょう。
「一括償却資産」との使い分けを検討する
取得価額が20万円未満の資産については、3年間で均等に経費化する「一括償却資産」という制度もあります。
一括償却資産を選択した場合、償却資産税の課税対象外となるという大きなメリットがあります。
少額減価償却資産の特例(年間300万円限度)の枠を温存したい場合や、償却資産税の負担を抑えたい場合は、20万円未満の資産に対して一括償却資産を選択するのも有効な選択肢です。
正確な減価償却資産台帳(償却資産申告用)の作成
税務上の即時償却と、地方税上の減価償却計算は並行して管理する必要があります。
社内の固定資産管理台帳がごちゃまぜになってしまうと、毎年の償却資産申告で誤りが生じやすくなります。
まとめ
少額減価償却資産の特例における上限額の「40万円未満」への引き上げは、中小企業の皆様にとってIT化や設備更新を加速させる大きな追い風となります。
その一方で、法人税の節税メリットと、償却資産税(固定資産税)の課税・申告実務は切り分けて考える必要があります。