はじめに
相続税や贈与税の計算において、非上場株式(取引相場のない株式)の評価は長年にわたって重要な課題であり続けています。
上場株式と異なり市場価格が存在しないため、税法上の評価ルールに基づいて株価を算定する必要があります。
現行の評価方法は「財産評価基本通達」に基づいており、会社の規模に応じて「類似業種比準方式」「純資産価額方式」「配当還元方式」などを使い分ける仕組みとなっています。
しかし近年、この評価方法をめぐっては租税回避スキームへの悪用や評価の不公平といった問題が顕在化し、国税庁は2026年8月に有識者会議を開催して評価の見直しの方向性を示しました。
本コラムでは、非上場株式の評価がどのように変わろうとしているのかを解説します。
現行の評価方法が抱える問題点
1. 評価体系の不公平と租税回避スキームの横行
現行の評価体系では、会社の規模(大会社・中会社・小会社)に応じて異なる評価方式が適用されます。
大会社は主に「類似業種比準方式」が適用されるため評価額が相対的に低くなる一方、小会社は「純資産価額方式」が適用されることで評価額が高くなる傾向があります。
この仕組みを利用して、意図的に会社規模を操作することで評価額を圧縮するスキームが横行しているとの指摘があります。
2. 類似業種比準方式・純資産価額方式の問題点
類似業種比準方式については、上場企業の縮小モデルを小規模な非上場企業に当てはめることの妥当性への疑問が呈されており、廃止を含む抜本的な見直しが必要との意見が出ています。
また、純資産価額方式については、継続して事業を営んでいる会社に対して、まるで解散・清算するかのような時価純資産で評価することは適切ではないとの意見が有識者会議で示されました。
評価見直しの方向性
1. 規模別の区分廃止と共通の評価方式の導入
最も大きな方向性の一つが、現行の規模別区分を廃止し、すべての企業に共通の評価方式を適用するというものです。
これにより会社規模を操作して評価額を下げるスキームへの対応が可能になるとともに、大会社と小会社の間の評価の不公平も解消されることが期待されています。
2. 残余利益方式(インカムアプローチ)の導入
有識者会議では、企業の収益力を重視する「インカムアプローチ」を評価の主軸とすることが検討されており、中でも残余利益方式(簿価純資産ベース)が最も有力な選択肢として浮上しています。
評価額 = ①企業の保有資産(簿価純資産)± ②数年分の超過収益(残余利益)
①簿価純資産:現行の純資産価額方式では資産を時価に洗い替えますが、新方式では帳簿上の簿価を使用します。
継続使用を前提とした簿価で評価するため実態に即しており、時価への洗い替え作業が不要なため事務負担も大幅に軽減されます。
②超過収益(残余利益):企業が通常期待される利益を上回る金額のことで、有識者会議では5年分が適当との意見が出ています。
収益力の高い企業:超過収益がプラスとなり、簿価純資産を上回る評価額になる
赤字または低収益の企業:超過収益がマイナスとなり、簿価純資産を下回る評価額になる
この方式の大きなメリットは、評価に必要な資料が①直前期末の貸借対照表と②過去数年分の損益計算書のみで済む点です。
複雑な業種目判定や調整作業が不要となり、実務上の手続きが大幅に簡素化されます。
配当還元方式と租税回避への対応
配当還元方式は少数株主が株式を取得した際に適用される特例的な評価方式ですが、株主構成や議決権割合を操作することで評価額を大幅に圧縮するスキームが存在し、企業価値の総額から最大で約98%もの評価圧縮を行う事例も見られます。
見直しの方向性としては、特別の例外措置として適用範囲を厳格に整理した上で存置することが検討されています。
また、利益等の恣意的な操作による評価額圧縮(多額の役員報酬や一時的な役員退職金など)に対しては、企業の正常利益(非経常的な損益を除外した利益)で評価することが検討されています。
さらに、グループ法人税制を活用した評価圧縮スキームに対しては、グループ全体として評価を行う方向が示されています。
実務上の影響と今後の対応
今回の評価見直しは、非上場株式を保有するすべての中小企業オーナーや事業承継を検討されている方々に大きな影響を与える可能性があります。
特に注目すべき点は次のとおりです。
1. 収益力の高い企業は評価額が上昇する可能性:残余利益方式では超過収益が加算されるため、業績好調な企業の株価は現行より高くなることが想定されます。
2. 赤字・低収益企業は評価額が低下する可能性:超過収益がマイナスとなるため、株式評価額が簿価純資産を下回ることになります。
3. 従来の節税スキームの無効化:規模操作や利益操作による評価圧縮スキームが使えなくなるため、これまでの節税対策を見直す必要が生じます。
おわりに
非上場株式の評価方法の見直しは、まだ有識者会議での議論の段階であり、最終的な制度変更がいつ、どのような形で実施されるかについては今後の動向を注視する必要があります。
しかし、改正の方向性は明確に示されており、特に事業承継を検討されているオーナー様や相続税対策を行っている法人様にとっては、早期に現状を把握し将来の制度変更に備えることが重要です。