コラム
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2026.09.02

みなし相続財産を活用した相続対策~死亡退職金・死亡保険金の賢い使い方~

 はじめに

相続税の対策を考えるとき、多くの方が「財産をどう分けるか」「どう減らすか」という観点でお考えになると思います。

しかし、相続税対策には「みなし相続財産」を賢く活用するという重要な視点があります。

みなし相続財産とは、民法上は相続財産ではないものの、税法上は相続財産とみなして相続税の課税対象となる財産のことです。

代表的なものとして「死亡退職金」と「死亡保険金(生命保険金)」があります。

これらは一見すると「相続税がかかるもの」として敬遠されがちですが、実は非課税枠が設けられており、正しく活用することで大きな節税効果と、円滑な遺産分割・納税資金の確保につながります。

本コラムでは、みなし相続財産の基本的な仕組みから、具体的な相続対策の活用方法まで詳しく解説します。

 みなし相続財産とは何か

 民法上の相続財産との違い

民法上の相続財産は、被相続人(亡くなった方)が生前に保有していた財産であり、プラスの財産(現金・預金・不動産・有価証券など)とマイナスの財産(借入金・未払いの税金など)から構成されます。

これらは相続人全員の「遺産共有」となり、遺産分割協議によって誰が何を受け取るかを決定します。

一方、みなし相続財産は被相続人の死亡を原因として発生する財産ですが、法律上は受取人固有の財産として扱われます。

つまり、遺産分割協議の対象にはならず、あらかじめ指定された受取人が直接受け取ることができます。

しかし、相続税法上はその経済的実質が相続による財産の取得と同様であるとして、相続税の課税対象とされています。

 主なみなし相続財産の種類

みなし相続財産には以下のようなものがあります。

種類 概要
死亡保険金(生命保険金) 被相続人が保険料を負担していた生命保険の保険金
死亡退職金・弔慰金 被相続人の死亡により会社から支払われる退職金等
生命保険契約に関する権利 被相続人が保険料を負担していた未払いの保険契約上の権利
定期金に関する権利 年金保険等の権利

本コラムでは、特に相続対策として活用度の高い「死亡保険金」と「死亡退職金」に絞って詳しく解説します。

  死亡保険金(生命保険金)の活用

 非課税枠の仕組み

死亡保険金には、相続税法上の非課税限度額が設けられています。

その計算式は以下のとおりです。

非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数

たとえば、法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人であれば、非課税限度額は 500万円 × 3人 = 1,500万円となります。

この金額までの死亡保険金は、相続税の課税対象から外すことができます。

なお、非課税の対象となるのは「相続人」が受け取った保険金のみです。

相続人以外の方が受け取った保険金は非課税枠の適用がなく、全額が相続税の課税対象となりますのでご注意ください。

課税される金額の計算

死亡保険金を受け取った場合、相続税の計算上は以下のように処理します。

課税対象額 = 受け取った死亡保険金の合計額 - 非課税限度額

先ほどの例で、合計2,000万円の死亡保険金を受け取った場合、課税対象となるのは 2,000万円 ― 1,500万円 = 500万円 です。

現金2,000万円をそのまま相続するよりも、1,500万円分を非課税にできるわけです。

 保険契約の形態と課税関係

生命保険の課税関係は、「保険料負担者」「被保険者」「受取人」の3者の関係によって異なります。

保険料負担者 被保険者 受取人 課税の種類
被相続人 被相続人 相続人 相続税(みなし相続財産)
被相続人 被相続人 相続人以外 相続税(非課税枠なし)
相続人 被相続人 相続人 所得税・住民税
被相続人 相続人 被相続人 相続税(相続財産)

相続税対策として生命保険を活用する際は、保険料の負担者と被保険者を被相続人本人に設定することが基本となります。

 生命保険を活用した相続対策の具体的メリット

 ① 非課税枠による節税効果

前述のとおり、「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠を活用することで、現金や預金をそのまま残すよりも相続税の負担を軽減できます。

 ② 納税資金の確保

相続税は、原則として申告期限までに現金一括納付が必要です。

遺産の多くが不動産や自社株式などの換金しにくい財産である場合、相続税の支払いに困るケースがあります。

生命保険金は、必要書類を準備すれば比較的早期に受け取れるため、納税資金として非常に有効です。

また、受取人が直接受け取ることができるため、遺産分割協議が長引いても資金が凍結されることがありません。

 ③ 遺産分割の円滑化(特定の相続人への資産移転)

生命保険金は受取人固有の財産であるため、遺産分割協議の対象外です。

  死亡退職金・弔慰金の活用

 非課税枠の仕組み

死亡退職金(被相続人の死亡を原因として、勤務先や会社から支払われる退職金)についても、生命保険金と同様の非課税枠があります。

非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数

法定相続人が3人であれば、死亡退職金も1,500万円まで非課税となります。

生命保険金と死亡退職金はそれぞれ別個に非課税枠が適用されるため、両方をうまく活用すれば、法定相続人が3人の場合、合計3,000万円まで非課税にすることができます。

役員・経営者の方への活用

死亡退職金の活用は、特に中小企業の経営者・役員にとって重要な相続対策となります。

役員退職金規程の整備

会社が役員退職金を支払うためには、役員退職金規程(役員退職慰労金規程)を事前に整備しておくことが必要です。

規程がない場合や、規程があっても株主総会・取締役会の決議が行われていない場合、退職金の支払いが適切と認められないリスクがあります。

また、税務上、過大な役員退職金は損金算入が否認される場合がありますので、功績倍率法などを用いて適正な金額を設定することが重要です。

功績倍率法による計算式
退職金 = 最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率

功績倍率は役職や会社への貢献度によって異なりますので、専門家へのご相談をお勧めします。

 会社側の税務メリット

役員に支払った死亡退職金は、会社側では損金(経費)として算入することができます(過大部分を除く)。

これにより、法人税の節税にもつながります。

また、この財源として生命保険(法人が契約者・保険料負担者となる経営者保険)を活用することで、保険料の一部または全部を損金算入しながら死亡時の財源を確保するという手法が広く用いられています。

  活用上の注意点

 生命保険の「名義保険」に注意

「名義保険」とは、実態として被相続人が保険料を負担しているにもかかわらず、契約上の保険料負担者が別の人になっている保険契約のことです。

税務調査では、実質的な保険料の負担者が誰かを詳細に確認されます。

名義保険は相続税の申告漏れとして指摘されるリスクが高いため、保険契約の見直しが必要です。

 相続放棄をした場合

相続を放棄した方が死亡保険金や死亡退職金を受け取った場合、相続人ではないため、非課税枠は適用されません。

ただし、非課税枠を計算する上での法定相続人の数は、相続放棄がなかったものとして計算しますので、全体の非課税枠が減少することはありません。

この点は混乱しやすい部分です。

 「相続税の2割加算」との関係

相続税には、配偶者・子ども・父母以外の方が財産を取得した場合に相続税額が2割加算される制度があります。

孫(代襲相続人を除く)や兄弟姉妹などが保険金の受取人となっている場合はこの点に注意が必要です。

 具体的な活用事例

事例:法定相続人3人(配偶者・子ども2人)のケース

項目 内容
相続財産(合計) 1億円(現預金3,000万円、不動産7,000万円)
法定相続人 配偶者・子ども2人(計3人)
基礎控除額 3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
課税遺産総額 1億円 ― 4,800万円 = 5,200万円

この状況で、現預金3,000万円のうち3,000万円を以下のように活用したとします。

– 生命保険(死亡保険金):1,500万円(非課税枠:500万円 × 3人 = 1,500万円)
– 役員退職金:1,500万円(非課税枠:500万円 × 3人 = 1,500万円)

この場合、非課税となる金額は 1,500万円 + 1,500万円 = 3,000万円 となり、課税遺産総額が大幅に圧縮されます。

さらに、役員退職金は会社の損金にもなるため、法人税の節税も同時に実現できます。

 おわりに

死亡保険金と死亡退職金というみなし相続財産は、適切に活用することで相続税の節税・納税資金の確保・円滑な遺産分割という3つの効果を同時に実現できる、非常に有効な相続対策ツールです。

しかし、保険契約の形態・受取人の設定・役員退職金規程の整備など、細部にわたる注意点も多くあります。

誤った対策は思わぬ税務リスクにつながることもあります。

「うちはまだ大丈夫」と思っていても、相続は突然やってきます。

早めに専門家へご相談いただき、ご家族にとって最適な相続対策を一緒に考えていきましょう。

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