コラム
column
2026.09.10

遺留分侵害額の請求に対して土地の所有権を移転した場合の税務上の取り扱い

 はじめに

相続が発生した際、遺言書の内容によっては特定の相続人が法律上保障された最低限の取り分(遺留分)を受け取れないケースがあります。

そのような場合、遺留分を侵害された相続人は「遺留分侵害額の請求」を行うことができます。

この請求に対して、金銭で解決するのが第一ですが、承継した資産が土地などがほとんどである場合、土地の所有権を移転することで解決するケースも実務上少なくありません。

本コラムでは、このような場合の税務上の取り扱いについて解説します。

 遺留分侵害額請求とは

2019年(令和元年)7月1日施行の改正民法により、従来の「遺留分減殺請求権」は「遺留分侵害額請求権」へと変更されました。

この改正により、遺留分の請求は金銭債権として行使するものとされ、遺留分を侵害された相続人は侵害額に相当する金銭の支払いを請求できることになりました。

ただし、あくまで「金銭の支払い」が原則であるものの、当事者間の合意があれば、金銭の代わりに土地などの不動産で代物弁済することも可能です。

この場合、税務上の取り扱いが複雑になるため、注意が必要です。

 土地の所有権を移転した場合の課税関係

 1. 遺留分侵害額を支払う側(譲渡人)の取り扱い

土地の所有権を移転することで遺留分侵害額の債務を消滅させる行為は、税務上「代物弁済」に該当します。

代物弁済とは、本来の給付(金銭)に代えて他の財産(土地)を給付することにより債務を消滅させる行為です。

この場合、譲渡人(土地を引き渡す側)には譲渡所得税が課税されます。

具体的には、土地を時価で譲渡したものとみなされ、以下のように譲渡所得が計算されます。

項目 内容
譲渡収入金額 消滅した遺留分侵害額債務の額(≒土地の時価)
取得費 土地の取得費(相続により取得した場合は被相続人の取得費を引き継ぐ)
譲渡費用 土地の譲渡に要した費用
譲渡所得 譲渡収入金額 - 取得費 - 譲渡費用

相続により取得した土地の場合、被相続人が取得した際の取得費を引き継ぐことになります(所得税法第60条)。

そのため、被相続人が土地を購入してから長期間が経過している場合、取得費が低く、多額の譲渡所得が生じる可能性があります。

また、相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内に譲渡する場合には、「相続税額の取得費加算の特例」(租税特別措置法第39条)が適用できる場合があります。

この特例を活用することで、納付した相続税額の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税の負担を軽減できます。

 2. 遺留分侵害額を受け取る側(譲受人)の取り扱い

土地の所有権を取得した側(遺留分権利者)については、取得した土地は相続により取得したものとみなされます。

改正民法施行後においても、遺留分侵害額請求により取得した財産については、相続税法上は相続または遺贈により取得した財産として相続税が課税される取り扱いとなっています(相続税法基本通達)。

したがって、取得した土地の相続税評価額(路線価等による評価額)が相続税の課税対象となります。

また、すでに相続税の申告を行っている場合は、当初の申告内容を修正する修正申告が必要となる場合があります。

 3. 譲渡所得と相続税の二重課税について

遺留分侵害額の請求を受けた側は、土地を移転することで譲渡所得税が課税され、受け取った側は相続税が課税されるという構造になっています。

一見、同じ土地について二重に課税されているようにも感じられますが、それぞれ異なる課税根拠に基づくものであり、法的には問題ないとされています。

ただし、この課税の重複感を軽減するために、前述の相続税額の取得費加算の特例の適用可否や、各種控除の活用を事前に十分に検討することが重要です。

 実務上の注意点

民法改正により、遺留分の請求は金銭で解決することとされ、遺言による遺産の承継が安易な環境となりました。

しかし、遺贈を受ける遺産の大半が不動産や取引相場のない株式である場合、仮に遺言で無事承継しても受遺者が相続税の納税資金の捻出や遺留分侵害請求への対応に窮することがあります。

そのため遺贈者は受遺者がそのような状況に陥らないよう、承継させる不動産や取引相場のない株式に加え、金融財産を多く取得させるなどの配慮が必要です。

 おわりに

遺留分侵害額の請求に対して土地の所有権を移転する場合、譲渡所得税・相続税・不動産取得税など複数の税目にわたる複雑な課税関係が生じます。

特に、相続税額の取得費加算の特例など、適用可能な税務上の特例を見落とすと、過大な税負担を招く可能性があります。

相続が発生した際や遺留分の問題が生じた際には、早めに税理士にご相談いただくことをお勧めします。

CONTACT

無料相談はこちら

クリニックに強い税理士なので、
医療特有の制度や税務を考慮した提案が可能です。

  • 経営相談
  • 事業承継
  • 相続対策

無料相談はこちら

クリニックの経営相談、相続対策、事業承継ならお任せください。

クレド税理士事務所

〒532-0011

大阪府大阪市淀川区西中島5丁目9−5 NLC新大阪ビル7階