コラム
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2026.10.15

公正証書遺言のデジタル化と今後の遺言制度について

 はじめに

遺言は、ご自身の想いと財産を次の世代へ確実に引き継ぐための大切な手段です。

なかでも公正証書遺言は、公証人が関与するため形式不備による無効のリスクが低く、原本が公証役場に保管されるため紛失・改ざんの心配もない、最も信頼性の高い遺言方式として知られています。

近年、この公正証書遺言をめぐる手続が大きく変わろうとしています。

2025年10月1日には公正証書のデジタル化に関する改正公証人法が施行され、公正証書遺言の作成にもデジタル技術が導入されることになりました。

本コラムでは、その概要と、相続税・相続対策に携わる税理士の視点から見た今後の遺言制度の展望について解説します。

 1. 公正証書遺言とは何か:従来の仕組みのおさらい

まず、現行の遺言方式を整理しておきましょう。

方式 作成者 証人 家庭裁判所の検認 特徴
自筆証書遺言 本人 不要 必要(法務局保管制度利用時は不要) 手軽だが形式不備・紛失のリスク
公正証書遺言 公証人 証人2名以上 不要 確実性が高く、費用がかかる
秘密証書遺言 本人 公証人+証人2名 必要 内容を秘密にできるが利用は少ない

公正証書遺言は、遺言者が公証人に遺言の内容を口頭で伝え(口授)、公証人が筆記したものを遺言者と証人に読み聞かせ(または閲覧させ)、各自が署名・押印して作成するのが原則でした。

この方式は信頼性が高い反面、次のような負担も指摘されてきました。

– 証人2名の手配が必要
– 紙の原本への署名・押印が必須
– 作成までに日程調整や書類の往復に時間がかかる

こうした課題を解消するのが、今回のデジタル化です。

 2. 公正証書デジタル化の主なポイント

2025年10月に施行された改正公証人法等により、公正証書の作成手続が大幅に見直されました。

遺言に関連する主な変更点は次のとおりです。

(1)電子公正証書の導入

これまで公正証書は紙で作成するのが原則でしたが、電磁的記録(電子データ)による公正証書を作成できるようになりました。

原本が電子データとして保存されるため、保管スペースの問題や劣化のリスクが軽減されます。

 (2)ウェブ会議(リモート方式)による作成

公証役場に出向かなくても、ウェブ会議システムを通じて公証人と対面し、公正証書遺言を作成できるようになりました。

遺言者が入院中の病院や自宅、高齢者施設にいる場合でも、手続を進めやすくなります。

ただし、遺言の場合は本人の意思確認がとくに重要であるため、運用面では慎重な本人確認・意思確認が求められます。

(3)電子署名の利用

紙への署名・押印に代えて、電子署名を用いることが可能になりました。

マイナンバーカードを利用した本人確認など、デジタル環境に応じた方法が想定されています。

 (4)電子データでの謄本交付

作成後の公正証書の謄本(写し)も、電子データで受け取れるようになります。

相続発生後の金融機関や法務局への手続において、書類の取り回しが容易になることが期待されます。

注意点:デジタル化は「選択肢が増えた」ものであり、従来どおりの紙による作成も引き続き可能です。

ご本人の状況やITへの習熟度に応じて、方式を選ぶことができます。

 3. デジタル化によるメリットと留意点

 メリット

1. 時間的・身体的負担の軽減

遠方に住む方、体力面で外出が難しい方でも遺言を残しやすくなります。

2. 手続の迅速化書類の郵送や日程調整にかかる時間が短縮されます。

3. 保管・管理の安全性向上

電子データ化により、災害時の滅失リスクへの備えもしやすくなります。

4. 相続発生後の手続の円滑化

電子謄本の活用により、相続人の手続負担が減る可能性があります。

 留意点

1. 遺言者の意思確認の慎重さ

画面越しでは、第三者の影響や遺言者の状態を把握しにくい面があります。

判断能力や自由な意思の確認は、従来以上に重要です。

2. ITへの不慣れによる障壁

高齢の方にとって、機器の操作や環境整備が負担になる場合があります。

ご家族や専門家のサポート体制が欠かせません。

3. セキュリティ・なりすまし対策

電子署名や本人確認の仕組みが適切に運用されることが前提となります。

4. 制度の運用実態の把握

細かな運用は公証役場ごと・案件ごとに異なる場合があります。

実際に利用される際は、最新の情報を公証役場や専門家に確認することが必要です。

 4. 遺言制度をめぐる近年の動き

公正証書遺言のデジタル化は、遺言・相続制度全体の見直しの流れの一部です。

関連する動きを整理しておきます。

 自筆証書遺言書保管制度(2020年開始)

法務局で自筆証書遺言を保管してくれる制度です。

紛失・改ざんを防止でき、相続開始後の家庭裁判所の検認が不要になります。

手数料が比較的低額であることも利点です。

 自筆証書遺言の方式緩和(2019年)

財産目録についてはパソコンでの作成や通帳のコピー添付が認められ、全文を手書きする負担が軽くなりました。

今後検討される方向性

法制審議会などでは、遺言の作成・保管・執行にデジタル技術を活用する方向での議論が進められています。

たとえば、自筆によらない電子的な遺言方式の創設可能性など、将来的な制度の見直しも検討の対象となっています。

現時点では、実際の導入時期や内容は確定していませんので、今後の動向を注視する必要があります。

5. 遺言を作成する際のチェックポイント

デジタル化が進んでも、遺言作成の基本は変わりません。以下の点を確認しておきましょう。

– ☑ 財産の一覧(財産目録)を最新の状態に整理しているか
– ☑ 相続人の範囲と遺留分を確認しているか
– ☑ 相続税の試算を行い、納税資金の目途が立っているか
– ☑ 付言事項(家族へのメッセージ)に、遺言を残した理由や想いを記しているか
– ☑ 遺言執行者を指定しているか
– ☑ 作成後も、財産状況や家族関係の変化に応じて見直す予定があるか

遺言は一度作成して終わりではなく、状況の変化に応じた見直しが大切です。

デジタル化により修正や再作成のハードルが下がれば、定期的な見直しもしやすくなるでしょう。

 おわりに

公正証書遺言のデジタル化は、遺言を残す方・受け取る方双方にとって、手続の負担を軽減する大きな前進です。

一方で、デジタル化によって形式面が簡便になったとしても、「どのような内容の遺言にするか」という中身の検討の重要性は変わりません。

とくに、相続税の負担、遺産分割の円滑化、遺留分への配慮といった観点は、法律と税務の両面からの検討が欠かせません。

遺言書の作成にあたっては専門家と連携しながら遺言を残す方の思いが確実に形になるようにすすめていきましょう。

 

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