コラム
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2026.10.28

成年後見制度の改正と影響 民法改正の成立を受けての実務への影響

 はじめに

高齢化が進むなか、認知症などで判断能力が低下した方を支える「成年後見制度」は、相続・資産管理・税務の実務と切り離せない存在です。

平成12(2000)年の施行から四半世紀以上を経て、この制度を抜本的に見直す民法改正案が令和8(2026)年4月に閣議決定され、6月に参議院本会議で可決・成立しました(令和8年6月24日公布)。

施行は令和10(2028)年秋ごろを目途に検討が進められています。

本コラムでは、成立した改正の内容と、税理士業務や相続対策にもたらす影響を解説します。

 1. これまでの成年後見制度の課題

現行の法定後見には、次のような課題が以前から指摘されてきました。

– 本人の意向や家族の希望に沿った制度とは言い難く、使い勝手が悪い

– 一度利用を始めると、事理弁識能力(いわゆる判断能力)が回復しない限り、一生制度利用を終了できない

– 成年後見人の交代が困難で、本人がニーズに合った保護を受けられない

税理士の実務でも、「遺産分割協議のためだけに後見制度を使ったのに、その後も本人が亡くなるまで後見人報酬が続く」「後見開始後は生前贈与などの相続税対策ができない」といったご相談が少なくありませんでした。

 2. 成立した民法改正の主なポイント

26年ぶりとなる今回の見直しにより、権利擁護の観点から、本人の意思を尊重する内容に大きく改正されました。

2-1. 「後見・保佐・補助」の3類型を「補助の制度」に一元化

最大のポイントは、従来の「後見・保佐・補助」の3類型を廃止し、原則として「補助の制度」に一元化した点です。

– 本人に必要な事項についてのみ、代理権・取消権を付与する

– 必要な範囲での制度利用が可能になり、自己決定が必要以上に制限されることを防ぐ

– 利用開始にあたっては、原則として本人の同意が必要となる

 2-2. 必要がなくなったときに制度利用を終了できる

事理弁識能力が回復していない場合でも、制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは、制度を終了できるようになりました。

「一度使ったらやめられない」という最大のデメリットに対する、大きな見直しです。

 2-3. 本人の自己決定のさらなる尊重

福祉・医療の現場で提起されてきた「意思決定支援」の考え方が、新たな「補助の制度」にも取り入れられました。

– 補助人の選任時に「本人の意見」が重要な考慮要素であることを明確化

– 「本人の利益のために特に必要があるとき」と認められれば、家庭裁判所の判断で補助人を解任できる

 2-4. 任意後見制度の柔軟な利用

– 受任者が亡くなった場合、次の後見人を誰にするかを、本人と受任者の間であらかじめ決めておくことが可能となる

– 従来は親族または任意後見受任者に限られていた申立人が、本人が公正証書で指定した人も、任意後見契約を発効させる裁判手続の申立てができるようになる

 3. 税務・相続実務への影響

ここからは、税理士業務の観点で、改正が与えうる影響を整理します。

以下は、改正の趣旨から想定される実務上の見通しであり、具体的な運用は今後の政省令やガイドラインの内容を確認する必要があります。

 3-1. 遺産分割協議のための利用がしやすくなる

相続人に判断能力の不十分な方がいる場合、遺産分割協議のために後見制度を利用する必要があります。

制度利用を終了できるようになることで、協議が完了した時点で支援を終え、その後の継続的な報酬負担を避けられる可能性があります。

相続手続きのためだけに制度を利用することへの心理的・経済的なハードルが下がることが期待されます。

3-2. 相続税対策・生前対策の選択肢への影響

現行制度では、後見開始後は生前贈与、養子縁組、不動産の組換え、自社株の承継対策などが事実上難しくなっていました。

「補助の制度」では代理権・取消権が必要な事項に限定されるため、支援が必要な範囲以外では本人の意思に基づく財産管理が行いやすくなると考えられます。

ただし、判断能力が低下した状況での贈与や契約は、その有効性が別途問題となります。

どの範囲まで本人が自ら行えるかは個別の判断が必要で、対策は判断能力のあるうちに実行しておくことが基本である点は変わりません。

 3-3. 申告・納税手続きにおける役割分担

本人が納税義務者である場合、確定申告や相続税の申告を誰が行うかが問題になります。

代理権が必要な事項に限定されるため、次の点を事前に確認しておくことが重要です。

1. 税務申告が補助人の代理権の範囲に含まれているか
2. 申告に必要な財産情報を、本人・補助人・税理士でどのように共有するか
3. 家庭裁判所の審判内容(付与された代理権の範囲)の確認

3-4. 任意後見・家族信託との使い分け

任意後見契約が「補助の制度」の利用開始後も存続できるようになるなど、任意後見の使い勝手が向上します。

家族信託との併用を含め、次のような整理が必要です。

手法 特徴 税務上の留意点 
任意後見 本人の意思を反映しやすい。改正で柔軟性が向上 監督人の報酬負担
家族信託 柔軟な財産管理・承継が可能 受益者課税の原則、贈与税・相続税の課税関係
補助の制度 必要な範囲に限った支援。終了も可能に 代理権の範囲に応じた申告・手続きの確認

  4. 今から取り組むべき対策

施行は令和10年秋ごろの見込みですが、準備は今から始められます。

– 判断能力があるうちの対策:任意後見契約、家族信託、公正証書遺言の作成、生前贈与や不動産の組換えなどの相続税対策

– 財産情報の整理:財産目録の作成、通帳・保険証券・不動産情報の整理

– 家族間での共有:本人の意向や財産状況を、元気なうちに家族で話し合っておく

– 専門家チームとの連携:弁護士・司法書士・税理士・社会福祉士・ケアマネジャーなどが連携できる体制づくり

 おわりに

今回の民法改正は、成年後見制度を「本人を保護するための包括的な制度」から「本人の意思を尊重し、必要な範囲で使う制度」へと転換する大きな節目です。

相続・資産承継の現場でも、制度の使い方や対策の考え方が変わっていくことが予想されます。

具体的な運用は、今後の政省令や次期基本計画の内容で明らかになっていきます。

ご家族の状況に応じた相続税対策を行っていきましょう。

 

 

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